6月23日(月)
ドビュッシー:わたしの心に涙ふる (ソプラノ)足立さつき (ピアノ)斎藤雅広 (サクランボウATCO-1022)
ドビュッシー作曲、わたしの心に涙ふる。演奏はソプラノ足立さつき、ピアノは斎藤雅広でした。今週は「鬱陶しきは心地よきもの」というテーマでお届けいたします。
いまの曲の「巷に雨がふるように、わが心にも涙ふる・・・」という憂鬱な詩を思い浮かべてみながら、自分の心の中にふと雨が降った時のことを考えてみると、それは「毎日同じ時間に、決まって彼女の電話がお話し中の時がある」という事でした。いったいそれがなにを意味しているか、誰にでもすぐ分かりますね。心の雨はぬぐうこともできなければ、それをよけてどこかに隠れることすらできないもの。降り始めてしまったら、それがやむまでじっと待つしかないのです。でもそれがあまりに早くやんでしまったら、今度は耐えがたい渇きが襲ってきます。悲しみにみちた渇きほど苦しいものはありません。それゆえに「心の雨」はそっとやさしい潤いを与えてくれていた心地よいものだったのかもしれないのです。いまは人間は悲しいから泣くのではなく、涙もまた渇こうとする心を癒すために流れる「恵み」なのだと感じています。
ドビュッシー作曲の美しい曲、未練。演奏は同じく、足立さつきのソプラノ、斎藤雅広のピアノです。
ドビュッシー:未練 (ソプラノ)足立さつき (ピアノ)斎藤雅広 (サクランボウATCO-1022)
6月24日(火) *この回は国会中継のため放送されませんでした
アイヴ・ガット・ア・クラッシュ・オン・ユー (ヴォーカル)フランク・シナトラ & バーブラ・ストライザンド (東芝EMI TOCP-8066(シナトラ&フレンズ/デュエッツ))
フランク・シナトラとバーブラ・ストライザンドでアイヴ・ガット・ア・クラッシュ・オン・ユー、「君に夢中」でした。
さて今日の主人公は二人の男女。狭い中華料理屋で見つめあっています。
「君が好きだ。大好きだ」
「うん、ありがとう」
「本当に好きだ!」
「わかった」
「君はぼくの生きる光だ。宝物なんだよ」
「ありがとうね」・・・二人の会話は途切れる事なく続きます。
「ぼくは今まで気がつかなかったんだ。ぼくは自分が植物だってことはわかってたから、努力していっぱい枝も広げた。でも君が現れてから違うんだ。」
「どんなふうに?」
「君は太陽だったんだね、ぼくにとって。今ぼくは花が咲こうとしてるんだよ。君が教えてくれたんだ、ぼくが花が咲く植物だということを」
「言いすぎだよ」
「大切にするよ、幸せにするね」
「ほんとうにありがとうね。でもわたしはきっとそんな価値がないわ」
「何でそんなことを言うんだ!君がこうして目の前にいるだけで、生きていく力を与えられるんだよ、ぼくの人生の全てなんだ」
さてさて彼らの周りにも何組かのカップルがいましたが、みんな食事もそこそこにため息まじりで店を出て行きました。さあ、はたして他人の幸せとは、かくも鬱陶しいものなのでしょうか? でも紛れもない事実は、みんな耳をそばだてていたということです。
それではナタリー・コールの歌で「ラヴ」。お聴きください。
ラヴ (ヴォーカル)ナタリー・コール (ELEKTRA WMC5-400(日本盤)(タイトル:アンフォゲッタブル)
6月25日(水) *この回は国会中継のため放送されませんでした
プーランク:ノヴェレッテ第1番 (P)斎藤雅広 (コロムビアDENON COCQ−83484)
プーランク作曲、ノヴェレッテ第1番、ピアノは斎藤雅広でした。ノヴェレッテとは「ささやかな物語」を意味しますが、今日の主人公はゆったりとお昼寝中でした。すると外のほうから、にぎやかな笑い声が聞こえてきます。
「え?だれだよ?なんだ?ん?あいつらか。腕なんか組んで二人でデレデレして、こっちを見ていやがる。何を笑ってんだよ?なにがおかしいんだ?まったく鬱陶しいやつらだ。俺がここで芸でもするかと思ってんのか?ばかばかしい。どれ、顔でもじっくり拝んでやるか」・・・・そうつぶやくと動物園のチンパンジーはするすると高い木の上にのぼり、そのカップルをじっと観察し始めたのです。当のカップルはというと「あ、ここチンパンジーだよ。ねえ、なんかこっち見てるよ、ヤキモチ妬いてんの?おお、木に登ったよ。うまいうまい」と超ご機嫌。隣の柵ではアザラシが寝ているところに、子供たちが大声で「起きてよー」と絶叫していました。いまは人気のアザラシですから、かなり鬱陶しそうに寝返りを打っているだけでも大拍手です。そして先ほどの仲良しカップルはその先の所で、ライオンににらまれほえられて、思いっきり腰を抜かしていました。
自由のない空間にいる動物たちの憂鬱は、そうは言っても命を狙われる不安のない平和の心地よさの上に横たわっています。とても穏やかな悲しさ・・・それは人間が古代から感じてきた憂鬱そのものです。では古代をモティーフとしたサティ作曲のジムノペディ、斎藤雅広のピアノでお聴きください。
サティ:ジムノペディ第1番 (P)斎藤雅広 (コロムビアDENON COCQ−83484)
6月26日(木)
ザ・ジェントル・レイン (ヴォーカル)トニー・ベネット (CBSコロムビア CK9272(輸入盤)(タイトル/ザ・ムービー・ソング・アルバム))
トニー・ベネットでザ・ジェントル・レイン、静かな雨でした。今日のエピソードはそんな雨のふる、ある梅雨のこと。彼女と二人で食事に出かけた時のことです。レジを済ませようとしていると、気のきいた店の主人が「お連れの女の方にどうぞ」と一輪の花を渡してくれました。彼女が階段を下りてくるのが見えたので、見つからないようにそれを後ろに隠しながら店を出て、少ししてから「これを君に」と差し出しました。その時に、はじめてよく見たのですが、なんとも風采のあがらない、つまらない花でした。しかし彼女は思いのほか喜んでくれたのです。そして何日かたったあと、不意に彼女から「ねえ、あの花、なんていう花かなあ?辞典にものってないけど。とてもきれいに咲いているの」と言われて、正直とても驚きました。あんな貧弱な花がきれいなはずもなかろうに。
「あの花がいまも元気に咲いているのは、それは君の心が咲かせているんだよ」・・・そんなキザなせりふはさすがに言えませんでしたが、大事にしていてもらえて、本当にうれしかったのです。「きっとすごくきれいな色なんだろうね」と答えると「そうよ、とても」という弾んだ声が、心の中にまで一杯に響きました。きっと梅雨の長雨も、二人の間に咲いたどこにもないほどに美しい貧弱な花に、ずっとエールを送ってくれているのだと感じたのです。「君のことでいっぱい」ユー・ゴー・トゥー・マイ・ヘッド、この曲をトニー・ベネットでお聴きください。
ユー・ゴー・トゥー・マイ・ヘッド (ヴォーカル)トニー・ベネット (CBSソニー SRCS-6565(日本盤)(タイトル/パーフェクトリー・フランク))
6月27日(金)
ウォーク・ビトウィーン・レインドロップス(ヴォーカル)メル・トーメ (ビクターエンターテインメント コンコードVICJ−60631 (日本盤)(タイトル:リユニオン))
メル・トーメの粋なヴォーカルで、ウォーク・ビトウィーン・レインドロップスでした。さて雨が降れば次は晴れに決まっていますね。「雨ふって地固まる」とも言いますが、ひと波乱あってそれで以前より好転するとの意味合いから考えても、やはりどこでも雨のイメージは憂鬱さからは抜けられないようです。だから雨が上がって虹が出たり、晴れ間がのぞくことで幸せが訪れるようなイメージに思うのは、世界共通なようで、人間の感性は「悪いことの後は必ず良い事があるように」という願いを常に意識しているといえるでしょう。
でも実際の人生では雨の後は必ずしも晴れとは限りません。スカッと気持ちも生き方も切り替えるには、その雨の時期によっぽど努力をしていないと、そうもいかないでしょうね。でも雨の時期に努力をするのも、なんとなくつらすぎるし、雨のイメージはそれをたたずんで眺めている風情が似合っています。人間はとてもすばらしい・・・・悲しみもそして寂しさもつらさも、それを味わう自分の心のどこかに、安らぎにも似た心地よい場所を失ずに受け止めているのですね。だからこそその苦難や悲しみも振り払うことができるのです。
ヒヤズ・ザット・レイニー・デイ、ディック・フェイムズの味わい深いヴォーカルでお聞きください。
ヒヤズ・ザット・レイニー・デイ (ヴォーカル)ディック・フェイムズ (オーディオファイルACD−200(輸入盤)(タイトル/キープ・イット・シンプル))
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